幸福と右脳の関係 ~幸福学と脳科学

人と人生
Cristhian CristhianによるPixabayからの画像

「幸福」って何なのでしょう。
実は、幸福を定義するのは難しい。
辞書で調べると、「幸福」は「幸せ」であり、「幸せ」は「幸福」であるという、参照の無限ループに陥るのです。

結局は、幸福は何かの条件を満たしたときに現れるものというより、個人の主観だからだと私は考えています。

しかし、とらえどころない「幸福」を扱う、心理学の一分野「幸福学」というものが今注目されています。その日本での第一人者が、前野隆司教授。教授の著書を通じて、幸せについての探求を行うとともに、左脳の脳出血により、右脳の機能を失った脳科学者ジルボルト・テイラー博士の著書で語られる右脳だけで見た世界から、幸福への道を探ってみたいと思います。

幸福って何だろう?

お金を持っていても幸せになれない人たち

幸せな人生って、どんなものがあげられるのでしょうか。
一般的には、お金と幸せは比例しているような気がするのではないでしょうか。
しかし実際のところは、そうでもないようです。
以下のグラフを見ると、一人当たり実質GDPが伸びても、比例して生活満足度が上がるわけでもないのです。

幸せになるために必要な要件は何か?

お金と幸せを結び付けるのは短絡的と言えるかもしれません。
しかし、幸せな未来をイメージした時に、良い住まいや、良い車、時計やファッション、社会的な成功など、常に経済的な成功を意識させられるものが強く印象としてのぼるのではないでしょうか。
お金というのは実生活の上で、とても大事なものだし、多くの人が「不足」していると感じているものの一つ。

そしてお金と社会的な地位というものを同時に得られる、ビジネスの成功というものには多くの方が固執される部分ではないでしょうか。

1日数時間、スマホでポチポチすれば……なんていう情報商材が売れるのはそんな背景を反映しているのかもしれません。

ただ、ビジネスの成功が果たして幸せに直結するかというと、必ずしもそうとも言えません。では、どんな要素が満たされれば、幸せになれるのでしょうか。

それを四つの因子にまとめたのが、前野教授の研究です。

幸せの4つの因子

第一因子「やってみよう!」因子(自己実現と成長の因子)

「やってみよう!」因子とは……

コンピテンス(私は有能である)、社会の要請(私は社会の要請に応えている)、個人的成長(私のこれまでの人生は、変化、学習、成長に満ちていた)、自己実現(今の自分は「ほんとうになりたかった自分」である、というもの。

『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』前野 隆司 (著)

この因子について、前野教授はさらに、
小さくてもいいから自分らしさを見つけ、社会の中で自分らしく生きていくようなあり方
と言っています。

私なりに解釈するならば、
自分を知り、自分の力を知り、それを発揮することで周囲への良い影響を及ぼす事
といった表現にまとめられるのではないか、と思います。

第二因子「ありがとう!」因子(つながりと感謝の因子)

「ありがとう!」因子とは……

人を喜ばせる、愛情、感謝、親切と、他者との心の通う関係にかんする(因子)。
第二因子は他人に向かう幸せだという事ができるでしょう。

『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』前野 隆司 (著)

人を喜ばせたり、人に感謝したり、人に親切にしていると幸せになる、という側面と、
幸せな人は、心に余裕があるので、幸せの結果として、人を喜ばせたり、人に感謝したり、人に親切にできる、という事も言える
かもしれません。

どちらが正しいかはよくわからないとし、前野教授のスタンスとしては、「どっちでもいいじゃないか」という事のようです。

ところで、他人とのつながりという部分においては、友達は多い方がいいのか、友達は少なくてもいいのか?というところには、こんな結果があるそうです。友達が多いかどうかは、幸福にはあまり関係ないとのこと。むしろ、同じような友達というより、多様な友達がいることが、幸せと相関があるという事です

第三因子「なんとかなる!」因子(前向きと楽観の因子)

「なんとかなる!」因子とは……

楽観性(私は物ごとが思いどおりに行くと思う)、気持ちの切り替え(私は学校や仕事での失敗や不安な感情をあまり引きずらない)、積極的な他者関係(私は他者との近しい関係を維持することができる)、自己受容(自分は人生で多くの事を達成してきた)と関連した因子

『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』前野 隆司 (著)

楽観性、気持ちの切り替え、積極的な他者関係、自己受容といったキーワードで表される因子。

多様な選択肢がある場合、「常に最良の選択を追求する人」と「そこそこで満足する人」を比べると、後者の方が幸福度が高い傾向があるそうです

私の解釈で言えば、「どんな状態であっても受け入れる」柔軟な受容性ではないかと思います。
第一因子で求める自己成長も、完璧主義になれば、心にストレスを抱えてしまいがちです。
自分の成長も大事なんだけど、現状との折り合いをつけていく緩やかな気持ち
それが大事なのではないかと思います。

第4因子「あなたらしく!」因子(独立とマイペースの因子)

第4因子「あなたらしく!」因子とは……

社会的比較志向のなさ(私は自分のすることと他人がすることをあまり比較しない)、制約の知覚のなさ(私に何が出来て何ができないかは外部のせいではない)、自己概念の明確傾向(自分自身についての信念はあまり変化しない)、最大効果の追及(テレビを見るときはあまり頻繁にチャンネルを切り替えない)という事に関係する因子。

『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』前野 隆司 (著)

自分独自の世界観を自信をもって歩む、というイメージを感じます。

とはいえ、突出過ぎると今の社会では生きにくくなります。
そのあたりは、独自性と社会との調和を上手くバランスさせることが大事なのかもしれません。

幸せになる方法をまとめてみると……

幸せになるには「自分とつながる」ことが大事

これらのことを見て行く中で、私が感じるのは幸せになるには、自分とつながることがとても大事だという事。

「自分らしさ」「自分の良さ」を知り、それを活かす。
それは人の役に立つことでもあるし、役に立つことで、私たち自身が気持ち良くなる。
物事を深刻に考えることなく、目の前の事が良い事だと受け入れることができる。
そして、人は人、自分は自分という、軸を持つ。

自分の外とのかかわりに見えることもありますが、実は幸せという感情は、自分の内面で起こっていることではないかと思うのです。

幸せというのは心の中で起こること

幸せのメカニズムを紐解くと、脳科学的には脳内のホルモンの分泌と言えます。
幸せホルモンが分泌されれば、目の前の事が幸せに感じます。
という事は、目の前に起こることがすべて幸せである、という風にとらえることができたなら、それは偽りのない幸せなのです。

雨が降ったら、気持ちが沈む人もいますが、恵みの雨と、心躍らせる人もいます。
それはその人の心の中に紡ぐストーリー如何によります。
雨が降るという出来事はあくまできっかけで、そこにどう意味付けするかが幸せかそうでないかを決める決め手ではないかと思います。

つまり、幸せになるコツというのは、目の前で起こることはありがたい幸せな事である、というリフレーミングができることである、と言えるのではないでしょうか。

左脳を失った脳科学者

右脳が生み出す至福感

ジルボルト・テイラー博士という脳科学者がいます。
彼女は、脳出血で左脳の機能を失い、右脳だけが活性化している状態を経験しました。
次第に左脳の機能が低下していく感覚を、脳科学者の視点で見ていたそうです。
その時の様子を鮮明に語ってくれています。
まずは、この動画をご覧ください。

この内容は、博士の著書『WHOLE BRAIN(ホール・ブレイン) 心が軽くなる「脳」の動かし方』でも語られています。

脳出血を起こす前の人生で経験していた正常な感情から、安らかな多幸感以外は何も感じない状態になりました。

『WHOLE BRAIN(ホール・ブレイン) 心が軽くなる「脳」の動かし方』ジル・ボルト・テイラー (著)

博士は「多幸感」から抜け出すことを望んだ!?

ジルボルト・テイラー博士の著書を読んでいくと、右脳だけの多幸感の渦の中にずっと浸っていたかったか、というとそうでもないようです。痛みや苦しみも含めて、人生であるという事をその至福体験から悟ったのかもしれません。

つまり、幸せな感覚を感じたいとき、右脳優位になればその中に浸ることはできるようです。
今多くの人が、マインドフルネス、瞑想、ヨガや精神的な修練に強い関心を持っています。
それは恐らく、右脳優位における多幸感がそこにあることを意識的であれ、無意識であれ知っているからなのかもしれません。

幸せはどこにあるのか

良いこともそうでないことも楽しむ姿勢

幸福学の知見から、自分を知り、それを社会の中で活かす、という現実的な幸福への道を見出すことが出来ました。
一方で、右脳には少し現実を超絶したような多幸感の世界があるらしい、という事が脳科学の知見から感じ取ることが出来ました。

ただ、想像してみたときに、ただボーっと多幸感の中で漂うことが果たして幸せなのか?と考えるとそこは難しいところです。たとえば、薬物投与でボーっとすることはできるでしょう。けどそれを永遠に続けたところで「良き人生」と感じることはできるのでしょうか?

ジルボルト・テイラー博士は、8年かけて左脳の機能を回復させたようです。それは、右脳の世界に漂うことが彼女の人生の喜びではない、という事を本能的に知っていたからかもしれません。

私たちが望むのは、何もない穏やかな世界というよりも、様々な経験を経る中で喜怒哀楽を目いっぱい感じることの中に幸せがあるのではないでしょうか。もしそうだとすれば、目の前に起こる何事に対しても、好奇心を持って、喜んで接するという事が、人生を幸せにするコツなのかもしれません。

参考文献

『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』前野 隆司 (著)

『WHOLE BRAIN(ホール・ブレイン) 心が軽くなる「脳」の動かし方』ジル・ボルト・テイラー (著)


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この記事を書いた人

1968年大阪府生まれ
関西大学法学部法律学科卒業/親の経営する保険代理店に勤務
仕事が上手くいかない時期に、ジョセフ・マーフィー博士の著書に出会う。以来、自己啓発書・ビジネス書などを年間300冊読破
・ジョセフ・マーフィー・プロジェクト/・Read4Action認定ファシリテーター/・フューチャーマッピング/・ジーニアスコード/・ポール・J・マイヤー プログラム/心理学/スピリチュアル/成功哲学/

【著書】親の会社を継ぐ技術~後継者のゆく手をはばむ5つの顔を持つ龍とのつきあい方~(みらいパブリッシング)
【連載】
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